土地勘が無いと縮尺が適当な観光マップの距離感がつかめず、交通手段に迷う。
とりあえず大雲寺で蓮を見て稲荷山の古い街並みを歩いてみようと決める。
戸倉駅から、しなの鉄道で屋代駅に出て、そこから大雲寺に行こうとするも循環バスが複雑でしかも本数が少ないのでタクシー。
途中、運転手さんが「あれが姨捨駅ね」と高い山の上を指差す。「棚田なんて昔からあるのになんで有名になっちゃったのかな」って言っていて、「テレビじゃないっすか?」とか適当に返す。
大雲寺は季節ごとの花が美しいお寺ということで、夏は蓮が見事とのこと。人がぜんぜんいなくて、だいぶ終わってたけど名残の花をゆっくりと見ることができた。静か…って言いたかったけど、ウシガエルの鳴き声が楽しくて。石垣がお城のような立派なお寺だった。
美しい蓮を見ながら聴くお寺の鐘の音は8月9日のお昼前という時間的なこともあり、場所は違えども長崎の鎮魂の音のようにわたしの胸に響く。
8月は6日と9日と15日はやはり意識の中にいろいろと湧き立って来るものがある。
さて、ここからどうやって移動しよう。
最寄駅は姥捨。iPhoneで見ると徒歩44分。それしか手段は無さそう。
時間は11時半。炎天下だけどお茶と日傘とiPhoneを頼りにGo!
棚田の中を歩くのかなって思ったけど、わたしの歩いたルートは果樹園ルートだったみたいで、りんご、葡萄、キウイを見つつ、ひたすら斜面を登る登る。
時間的にほとんど日陰が無くて、人影も無いので倒れたら発見されるのに時間かかって熱射病で死ぬよねって思いながら登る登る。有名な棚田じゃなくても、ちょっとしたスペースに三段くらいの棚田があったりする。山の多い日本でお米を作る先人の知恵だけど、治水のことなど思うといろいろ苦労もあるのだろうな。今は夏なので青々と目に涼しげな田んぼではあるが、実際は涼しくない。けっきょく姥捨駅まで一時間。滝汗。よく歩きました。えらかった。
もう絶景もどうでもよく、反対側のホームへ行けば素晴らしい景色が眼下に広がることがわかっていても階段を上がる気力が自分の身体のどこをどう叱咤しても湧いてこない。
ランチは稲荷山で取ろう。しかし、その予定がいかに甘かったか、あとで思い知ることになる。
姨捨駅から稲荷山へ篠ノ井線で一駅だが、姥捨からの絶景と共にこの一駅の間のスイッチバックも鉄道マニアの間では有名なのだそう。
さて、「古い情緒ある街並みの」最寄り稲荷山駅。だけどバスは相変わらずわからない。タクシーはいない。ついでに人もいない。目的地まで徒歩30分ということだけはわかった。ううう… しかし嘆いてもわたしには歩く選択肢しか残されておらず、観光マップに載っているくらいの観光スポットならば、そこに行けば何か食べられるだろうという期待だけを頼りにまたまたGo! 途中はふつうの田舎道。だーれも歩いてない。
ちょっと嫌な予感がしつつも芙蓉や向日葵、アルストロメリア、ミニりんごなど、道端に咲く夏の花や果実を愛でつつ暑い暑い、お腹空いた、と独り言を口にしつつトボトボと歩き続け、目的地にやっと辿り着いたものの、「古い街並み」と思っていたのは「朽ち果てそうな古い土蔵と廃屋が数棟立ち並ぶ界隈」なのであった。
それはそれで悲しい風情があり、写真に撮ればそれなりに絵にはなる。でも飲食店は皆無、ベンチすら無く、「そして僕は途方にくれる」というフレーズが頭に浮かぶ。もうほんと体力の限界だけど、座ることもできない。
少し大きな通りに出ればタクシーが拾えるかもしれないという一縷の望みを抱いてフラフラと歩いていたら、なんとバスがこちらに向かって走ってくるのが見えて、自分がちょうどバス停にいるのに気づいて、行き先も確かめずに飛び乗ってしまった。
どこでもいい、駅に停まったら降りて、そこから電車に乗ろう、そう思った瞬間に「このバスは上山田温泉経由…」というアナウンスが聞こえて、神様に感謝した。それはまさに「夢なの?」と、ほっぺをつねりたいくらいの幸運だった。でも電車に乗る必要もなく宿の近くまで戻ってこられた喜びも束の間、わたしの空腹と疲れを癒してくれるところはどこ⁈とまたフラフラ。仕方がない、少し歩くけど今朝チラリと見たコンビニでおにぎりでも買って部屋に戻るかと歩いていたら、カフェ発見!coco rest さんという名前の新しめのカフェで、ピザトーストとアイスカフェオレが涙が出るほど美味しくておまけにお姉さんが親切で、このご恩は一生忘れませんという気持ち。
一度宿に戻って一息ついてから、夕方に戸倉駅周辺まで行き、周辺を探索。
可愛い燕のヒナたちやきれいな虹を見てカラコロの湯という足湯に浸かっていたらお山の「戸倉上山田温泉♨️」の一文字ずつの文字看板(温泉街からよく見えて観光客を出迎えてくれる。夜は赤くライトアップされる)が目に入り、夕景が見られるかもだからあそこに登ってみよう!となり、城山という名前らしいビューンと登ってみた。
そこにあったのはディープな世界。澳津神社は男女和合の神様が祀られていて、男性器と女性器が並んでおり、おお、こういうの噂には聞いたことある!と写真を撮ったけど撮影禁止って書いてあったらしい。安産とか子孫繁栄とか子宝とか、そういう意味合いがあるのですね。大きな善光寺に足を踏み入れぐるりと回ると眼下に上山田温泉街と千曲川が一望出来る。
数年前まではロープウェイが通っていたらしく、そのロープが見えた。帰り際に少し高いところに怪しげな廃墟が見えて、調べたら歴史館という曖昧でざっくりとした名前の建物で、割れた窓ガラスといいその廃墟っぷりがオーラを放っていた。
どんどん暗くなってきちゃって、明るかったらもう少し探検してみたかったな。
そして次は姨捨駅からの夜景を見ようということになり、ビューン。
昼間はあんな思いをして登った山を、ビューンです。
さて晩ごはんはレトロな喫茶店「あもん」さんでナポリタン。
そして宿に戻ってお風呂!
たくさんたくさん冒険した気分になった、充実の一日だった。