瑞々しく、シニカルで斬新で。とても50年も前に亡くなった作家とは思えない山川方夫。
わたし自身はそんなにたくさんは読んでいないんだけれど、あまりメジャーでないにしても34歳で交通事故で亡くなるまでにじつは4回も芥川賞候補になっていてマニアなファンも少なくないみたい。
作家として活躍していただけではなくて、雑誌『三田文学』の編集にも携わっていて、多くの文学者を輩出してる、目利きの編集者という顔も持っていて、今回の展示はとくにその部分にスポットをあてたもの。
山川方夫に見出された作家のひとりである坂上弘さんのお話しも聴講できて、鎌倉にある武満徹の家に一緒に遊びに行って踊ったこととか、山川方夫を慕ってお家へ日参していた坂上さんがいくとお母様が「お妾はんがきましたよ」ってお部屋に通してくれたこととかそんなことが聞けた。他人のために生きることが山川作品のスタンスって坂上さんはおっしゃっていたけれど、そうい印象をわたしは山川文学から受けたことはなく、意外だった。むしろ孤独とか人間のエゴとか邪心とか、そういう表に出せないような姿を表現しているところが特徴なんじゃないかって思ってた。
若いころに父親を亡くし一家の長として家族を支え、妹たちを嫁がせて自身は晩婚で、これから幸せになるというところで新婚9か月で他界。結婚してからの数少ない作品からは温かさが窺えると評されているから、もしもう少し長生きしていたら、違う作風に出会えていたのかもしれないけれど。
それにしても、坂上さんは訥々と静かにお話しなさりながらも人を惹きつける。わたしは聴いたことないけど企業セミナーみたいな大きな声でハキハキと元気に喋る講習会のようなものとは、たぶん真逆なんだろうな。
心通じ合えるとわかってる人と話すときは、大きな声や驚かせるような仕掛けなんて不要なんだわ。